「そのまんま料理カード」印刷原版紛失事件民事裁判資料集

第1回公判は2002年10月18日10時30分より東京簡易裁判所民事部304号室で開かれ、原告である壮光舎印刷は代理人の高橋美成弁護士、群羊社側は代表者・藤原が出廷しました。
 ●群羊社の言い分主旨(答弁書などから)
 壮光舎印刷が、明らかに重版が予測されたフィルム及びビク型などの中間生成物を無断処分したことは取引契約に違反し、当然原状復帰、もしくは作り直しによる損害を賠償すべきである。それが履行されないので別件印刷代金支払いを留保した。
 ●壮光舎印刷株式会社の言い分主旨(原告準備書面などから)
 フィルム及びビク型などの中間生成物の無断処分と印刷代金支払い請求とは無関係である。中間生成物の所有権は印刷会社にある。中間生成物は顧客のためのサービスとして相当期間保存しておくことがあるが、保管は印刷業者の義務ではない。

以下、第2回公判は2002年11月15日、第3回は12月13日、第4回は2003年1月24日、それぞれ10時から304法定で開かれ、これまでに4回の公判を重ねてきました。いずれも壮光舎印刷は代理人の高橋美成弁護士、群羊社は代表の藤原眞昭が出廷。2003年3月19日判決。
●群羊社の言い分=被告準備書面1
東京簡易裁判所民事部 御中
                 2002年11月12日
                 被告 株式会社群羊社 代表取締役 藤原眞昭 印

(1)製版フィルムや抜き型などのいわゆる中間生成物は、書籍などの重版(増刷)にとって必要不可欠のものである。この中間生成物を重版に備えて印刷会社が保管するのは出版界での常識かつ慣行である。中間生成物の所有権は印刷会社にあるとする判例があっても、重版が予測される以上印刷会社が勝手に処分することは出版業界ではあり得ない。あらかじめ取り決めた保管期間を過ぎた場合、長期間の取引中断などで重版の可能性がなくなった場合などを除けば、出版社の了解を得て処分するか出版社へ返却するのが業界の不文律となっている。原告と被告との20年を超える取引においてもこの不文律は守られ、被告が原告に発注した書籍等の中間生成物はすべて保管されてきた(乙第1号証参照)。処分もすべて被告の承諾書(例、乙第2号証)によって行われてきた。初版発行後18年間も重版がなく、かつ時代遅れとなった紙型(しけい)の処分ですら、こうして被告の承諾によって初めて処分されてきたのである。つまり、中間生成物の保管は被告と原告の、業界の常識を踏まえた基本的な約束事であり、相互が認める契約事項であったとみなすことができる。

(2)1994年10月、被告は「そのまんま料理カード第1集、第2集」の初版を各1万部、原告への発注によって発行した。この製品は厚紙に印刷した実物大の料理を抜き型でくり抜いたアイデアが「ウリ」であるため、製品化する上で製版フィルムと共に抜き型が重要な中間生成物であった。そこで被告は発注に当たって初版時に作る抜き型が10年以上の長期にわたり使用可能との言質を原告から得ており、発行後も被告は抜き型は適切に保管されており重版でも問題なく使用できる旨を原告よりしばしば聞かされてきた。同時に被告は原告に販売進捗状況や在庫数を説明しながら重版の可能性を予告していたので、原告は重版が行われることは明らかに予測できたはずである。

(3)2000年初めごろ「第1集」の在庫がなくなり重版(第2刷)が必要となり被告は原告へ見積を依頼した。2000年3月8日付けで送られてきた見積書・乙第3号証は、原告からのFAXに被告がメモを書き込んだものだが、ここにも製版フィルムや抜き型代の項目は見当たらない。ということは、この時点で初版時に作られた製版フィルムや抜き型が重版に備えて完全に保管されていること、その中間生成物を使って重版を行うことを原告は当然の前提条件として認識していたことになる。重版のたびに製版フィルムなどを作り替える例は修正個所が多い場合などではあるものの、それ以外ではほとんどあり得ない。保管してある中間生成物を使用して重版を製作することは出版業界の常識であり、その前提に立って重版見積、コスト管理や損益計算、重版発注などが行われている。

(4)乙第3号証の見積書が原告から被告へ送られてきてからしばらくたって、原告から外注先のブローカー(乙第4号証)が倒産していたため製版フィルムの一部と抜き型の所在が不明との連絡を受けた。これらの中間生成物はブローカーからさらに専門業者に外注されている可能性が強かったが、原告はこの「孫請け業者」を認識しておらず、電話帳を頼りに外注業者を探すありさまであった。その結果、外注業者が判明したもののブローカーの倒産を契機に製版フィルムの一部も抜き型もすでに処分してしまっていたとのことだった。これはまことにおかしなことであり、重要な中間生成物の消失原因が原告の管理不行き届きにあることを物語っている。中間生成物の管理の実態、ブローカーの倒産時期、原告が倒産の事実を知った時期、「孫請け業者」が中間生成物を処分した時期を証拠をもって明らかにしていただきたい。

(5)(4)の事態に対し被告は、原告負担による抜き型の作り直しを口頭により繰り返し要求した。しかし原告が応じないため、被告は品切れによる損害を考え、やむを得ず緊急避難的に自己負担(60万円、乙第5号証)で原告とは別の業者で抜き型を作り直し、2001年4月「そのまんま料理カード第1集」の重版(第2刷)を発行した。

(6)訴状にある「さくら・さくらんぼのリズムとうた改訂版第6刷」は、これまで申し述べてきた中間生成物無断処理に関する交渉を行っている最中の2001年5月30日に被告が原告に発注し(乙第6号証)、7月に納品が完了。印刷代金の支払い予定日は10月末であった。

(7)2001年8月ごろ、同年12月に予定されている「日本食品標準成分表」(科学技術庁)の第5次改訂に伴い、被告は「そのまんま料理カード第1集、2集」の重版(改訂版)の準備を始めた。原告に対し「第1集」の抜き型作り直し費用の補償と「第2集」の抜き型及び製版フィルムの一部の原状回復を改めて口頭で要求した。しかし原告はこの要求を拒んだため、原告側営業担当者ではラチがあかないと考え、2001年8月原告社長宛に文書による請求を行った(乙第7号証)。これに対し原告は「前例がない」との理由で請求にも応じなかった。自らの過失によって被告へ損害を与えたことは明白な事実にもかかわらず、「前例がない」という理由を持ち出して責任逃れに終始している原告の態度は社会正義にも反するものである。

(8)2001年10月末、重版が明らかに予測できたにもかかわらず中間生成物を無断処分して責任をとろうとしない原告に対し、被告は対抗策としてやむを得ず「さくら・さくらんぼのリズムとうた改訂版第6刷」印刷代金の支払いを留保した。

(9)印刷代金の支払い留保の理由の第1は、契約事項に反した無断処分によって原告から被った被告の損害に対し原告はきちんと補償すべきであること。第2は、今回の管理不行き届きによる無断処分事件に加え、2000年10月に起こった「カラ納品事件」(てんまつは乙第8号証参照)など相次ぐ原告の無責任行為から被告の利益を守るためには、取引関係を総括的にとらえて対処する必要性があったからである。

(10)(6)にある印刷代金の支払いを留保し(5)における抜き型代の再三再四の請求にもかかわらず、原告に無視されたばかりか(7)について生じた「そのまんま料理カード第2集」の製版フィルムの一部及び抜き型の原状回復についても拒否されているのが現状である。それがために被告は「第2集」の抜き型及び製版フィルムについてもやむを得ず自己負担で作り直し、原告とは別の業者で2002年11月重版(第2刷)を発行した。「第2集」の抜き型の作り直しにかかった費用は66万7000円である(乙第9号証。まだ請求書が来ていないので見積書である)。「第1集」「第2集」合わせて少なくても被告が受けた被害は約120万円以上となる。

(11)二つの問題(中間生成物無断処分と印刷代金支払い)は提訴にある印刷代金の支払い予定であった2001年10月末日の直前約6ヶ月間にわたり同時進行していた。しかも、いずれも原告と被告の取引関係の根底に深く関わる問題であった。よって二つの問題は、原告が主張するように別々の問題ではあり得ず、原告と被告の取引関係において総括的に対処されてもなんら問題ではなかった。原告の過失が原因で生じた被告の損害に原告が誠意をもって償うことが取引上における先決問題であり、それを原告が拒否する以上、損害金の一部が印刷代金でもって充当されるのもやむを得ない。
 過失責任を認めようとせず、自らの権利のみを主張して印刷代金の支払いを求めた原告の請求は、原告と被告の商取引の公平性からみてフェアとはいえず、被告はこれを支払う必要はないと考える。
 当局の厳正なるご判断をいただきたい。

証拠品一覧

乙第1号証 原告の保管している被告の製品のフイルム在庫一覧(2002年1月16日)
乙第2号証 紙型の処分を了承した被告から原告への承諾書の例(2000年8月30日)
乙第3号証 「そのまんま料理カード第1集」重版(第2刷)の原告の見積書(2000年3月8日)
乙第4号証 倒産により無断処分の原因となった原告の下請けブローカーの名刺
乙第5号証 「そのまんま料理カード第1集」の重版で抜き型の作り直しにかかった費用の請求書(2001年4月18日)
乙第6号証 「さくら・さくらんぼのリズムとうた第6刷」の発注書(2001年5月30日)
乙第7号証 被告が原告に当てた原状回復と弁償の請求文書(2001年8月21日)
      ※前文3行目は被告の事実誤認であることがあとで分かった。
乙第8号証 原告の「カラ納品事件」のてんまつを記した被告から原告への申入書(2000年10月28日)
乙第9号証 「そのまんま料理カード第2集」の重版で抜き型の作り直しにかかる費用の見積書(2002年9月18日)

                             以上
●壮光舎印刷の言い分=原告準備書面2
                                           平成14年12月6日
東京簡易裁判所民事部 御中
                                    原告訴訟代理人
                                       弁護士 岩倉 哲二 代印
                                       弁護士 高橋 美成 印


被告の平成14年11月12日付け準備書面について
1 製版フィルム・抜き型などの中間生成物についての所有権については、発注者にはなく、印刷会社の所有物であることは確立した判例であり、仮に印刷会社がこれらの中間生成物を破棄、処分しても、発注者との関係でなんらの債務費不履行責任、不法行為責任を負うものではない。
 そもそも、発注者から保管料ももらわずに、10年も20年もあるかないかもわからない重版を期待して保管し続ける義務だけが印刷会社にあるというのはあまりも常識に反する。
 他方の発注者には重版の際に同じ印刷会社に発注する義務など全くないのである。
2 原告が従前、被告から発注を受けた書籍等の中間生成物の処分につき、被告の承諾書を得てから処分を行ってきたことは事実である。
 しかし、それは念のために、慎重を期してそのような扱いをしていたということであって、中間生成物の保管義務を被告に負っていたからではない。
 乙第2号証の承諾書をもって、発注者の承諾なくして処分しないという合意が当事者間にあったとするのは理論の飛躍であり、間違った理論である。
3 2000年初めころ、重版の見積りを要望され、見積りを出したこと、その後下請けに保管依頼していた製版フィルムの一部・抜き型が紛失してしまっていることが発覚した経緯は大筋被告主張のとおりである。
4 被告が、別の業者に改めて抜き型を作らせておいて重版第1集、重版第2集を発行したことは、被告からも聞いており、争わない。
 その抜き型を作成させるための費用が120万円以上かかったかどうかについては不知である。
5 原告会社の下請け会社、孫受け会社の保管していたものが、破棄、処分されたことについては、原告会社自身の破棄、処分と同等に扱われるべきことに異論はない。
6 しかし、何度も主張するとおり、中間生成物の破棄処分については、発注者との関係で違法の問題は起きないことは、従前の判例の集積で法律的には解決済みのことである。
 印刷業者が、行っている中間生成物の保管行為は、顧客に対するサービスであり、重版の発注申し込みの誘因行為である。
 それをうっかり無くしてしまえば、顧客が重版の発注申し込みをしてくれないというだけのことである。
7 従って、この中間生成物の処分、紛失を理由としての他の印刷代金の支払い拒否は全く法律的は理由はなく、失当である。
8 なお、原告は法律上はともかく、実際上被告に迷惑を掛けたお詫びとして、そのまんま料理カードの製版フィルムの残っていた本体分全部(価値にして140万円相当以上)を無償で被告に譲渡した。
 被告は、それを利用して別の印刷会社で重版印刷をさせている。
 これを法律的な観点からすれば、本来被告に引き渡す義務のない原告所有物を被告に無償譲渡したものであり、被告はそれによって、全く新規に重版の印刷をするのと比較して140万円相当以上の経費を削減できたのである。
9 よって、被告の主張は、その前提を欠くものであり、抗弁たりえない。
 これ以上の審理をすることなく、結審し、判決がなされるべきである。

(添付)甲第2号証 昭和55年7月28日東京地裁判決〈昭和50年(ワ)第8066号、損害賠償請求事件〉
                             以上
●群羊社の言い分=被告準備書面2
東京簡易裁判所民事部 御中
                  2002年12月10日
                  被告 株式会社群羊社 代表者 藤原眞昭 印

平成14年12月6日付「原告準備書面2」について               
(1)判例とされた昭和55年7月18日東京地裁判決〈昭和50年(ワ)第8066号、損害賠償請求事件、以下判例Aという〉では「ポジフィルムの所有権は印刷業者に帰属する」として請求棄却したが、その理由の一部として、
1 中間生成物の保管の契約は1回を除いて締結されていない。
2 原告・被告間でポジフィルムの作製・保管・将来の重版に関する話し合い、交渉が行われた形跡がない。
3 原告から被告に対し、グラビア印刷からオフセット印刷に変更すること、それに伴ってグラビア印刷を専門とする被告側に発注を中止する旨の通知が行われたこと(この結果保管しておく必要性が消滅した)。
 などの事実を認定し、「ポジの作成・保管が契約の目的、内容とされる証拠がない」と判断している。
 「処分するには相応の理由があった」と認めているこの判例に対し、「そのまんま料理カード」中間生成物の無断処分問題は下記の点で判例Aと質を異にする。
1 初版時に作った中間生成物を用いて重版を行うことが初版依頼時からの約束事項であった。原告の出した第2刷見積書でも中間生成物の費用項目はなく、初版時に作った中間生成物を使用することが前提となっていることが分かる(乙第3号証)。
2 被告が重版を行う予定があることを原告は被告からの情報で明らかに分かっていた。
3 判例Aに見られるような、中間生成物を保管する必要性がなくなった、あるいは処分してもよいと判断できる合理的な理由を原告は持ち合わせていない。
4 以上にも関わらず、原告は被告の承諾なしに無断で中間生成物を処分し、被告に得べかりし利益を損ねる損害を与えた。
 よって、判例Aをもってしても、被告が印刷代金支払い留保の理由である損害賠償責任を免れるものではない。

(2)平成7年6月6日東京地裁判決〈平成5年(ワ)第20262号動産等引渡請求事件、判例Bという〉では、「製版フィルムの所有権は出版社に帰属する」として、損害賠償が行われている(東京高裁で和解)。

(3)平成13年7月9日東京地裁判決(結審)〈平成7年(ワ)第23552号損害賠償請求事件、以下判例Cという。乙第10号証参照〉では、「製版フィルムの所有権は印刷業者に帰属する」とし原告請求を棄却しているが、製版フィルムの保管義務については「被告は原告に対し、本件製版フィルムの保管を約束したものと認めることができるから、原告の承諾なくして本件製版フィルムを廃棄したことにより原告が被った損害を賠償する義務がある」と述べている。
 判例Cは、重版が行われないのが一般的である「雑誌」の紛失中間生成物の作り直し費用の補償が争点である。これに対し「そのまんま料理カード」は重版が明らかに予想された書籍類であること、初版時に作った中間生成物を用いて重版を行うことが初版発注時の約束ごとであった点が決定的に異なっている。
 よって、印刷業者に所有権があるから紛失による賠償責任はないという原告の主張の根拠とはならない。

(4)原則として重版が行われない雑誌と違って書籍の出版においては、編集費用や組版・製版代など原価のかかる初版では利益が発生しないか、発生しても薄い。重版が続いて初めて利益が発生するのが一般的である。出版社と印刷業者との請負契約も事実上初版から重版へとつながっており、初版時に作った中間生成物を使用して重版を行うことは常識で、その常識に則ってコスト計算が行われ定価が設定されている。したがって、今回のように明らかに重版が予測できた書籍の中間生成物を約束に反して無断で処分したことは、重版での被告が得べかりし利益を損なうものである。

(5)岩波書店の「広辞苑」を例にとると、1955年の第一版第一刷から今日に至るまで、四度に及ぶ大改訂が行われ重版回数はおびただしい数に及んでいるはずである。わが国の出版文化の象徴的存在といえる。現在刊行されている第四版についても、旧版の実績に加えて新たに四年半の歳月、数百人に及ぶ専門家の協力のもとに編集作業が行われた。
 第一刷の発行をもって印刷業者の請負は完了したのであろうか? 増刷の度に製版フィルムもしくはデジタルデータ類を処分されたら初版に投入された膨大な資金の回収が満足にできない。
 初版時に作った中間生成物がほとんどそのまま使えるのに、所有権を楯に増刷ごとに作り直すのが当たり前だという原告の主張にいったいなんの意味があるのか? 重版では初版時に作った中間生成物が使えるからこそ本の定価が安く維持できるのである。製版フィルム等中間生成物を保存するリスクは、この書籍代金が高くなる社会的文化的影響に比べれば微々たるものである。

(6)「10年も20年もあるかないかもわからない重版を期待して保管し続ける義務だけが印刷会社にあるというのはあまりに常識に反する」とあるが、保管するのがいやなら断ればよいし、受注した場合は約束ごとに従って処分するか、発注者の承諾を得て処分すればなんら問題は起こらない。

(7)「紛失のお詫びとして140万円相当の製版フィルムを被告に無償譲渡した」とあるが関知しない。第2版を増刷するに当たって原告に見積を要求したところ、ヌキ型作り直し費用を除き3000部製作費用として321万6000円の見積額を提出してきた(乙第3号証)。この額は不当に高く、あとで同条件で他業者で作ったら約100万円も安くできた(乙第5号証)。そこで初版時の料金体系にするようにと要求したところ、原告は渋り「トラブルが解決するまで他社でどうぞ」と指摘の製版フィルムを返却してきただけのことである。
 製版フィルムの所有権は印刷業者に帰属したとしても、出版権や著作権を持たない印刷業者にとって重版を行わない以上金銭的価値はなにもない。一方出版社にとっては製版製作代なしに自由に使えるものである。このような製版フィルムを「無償譲渡」したとか被告の「経費削減」となったとするのは詭弁以外なにものでもない。

(8)以上の理由により、原告の主張には正当性の根拠を持たない。繰り返し述べているように、原告の中間生成物無断処分は、原告と被告の取引における約束違反であり、中間生成物を無断処分してもよいという合理的な理由を原告が提示し得ない以上、被告が受けた損害について原告は補償する義務があると考える。この義務を原告が履行しない以上、同時期に発生していた別件の印刷代金をもって充当されても、商慣習上やむを得ない。

(添付)乙第10号証 平成13年7月9日東京地裁判決(結審)〈平成7年(ワ)第23552号損害賠償請求事件〉
                                  以上
●壮光舎印刷の言い分=原告準備書面3
                                         平成14年12月12日
東京簡易裁判所民事部御中
                                        原告訴訟代理人
                                        弁護士 岩倉 哲二 代印
                                        弁護士 高橋 美成 印


被告の平成14年12月10日付け準備書面について
1 被告の引用する判例の乙第10号証が、ありのままの判決文ではなく、その要旨であり、その正確性を担保できるものではない。
 しかし、この乙第10号証によるとしても、製版フィルムなどの中間生成物についての所有権については、発注者にはなく、印刷会社の所有物であること、仮に印刷会社がこれらの中間生成物を破棄、処分しても、発注者との関係で債務不履行責任、不法行為責任を負うものではない、という従前の判例を確認したに過ぎない。
2 勿論、これらの確立した判例は、特約を排除する趣旨ではない。むしろ特約があるときはそれに従うのは当然のことである。
 被告が引用する乙第10号証に、当事者間に中間生成物たる製版フィルムの保管合意があったので、損害賠償義務があるという記載がある。
 この文章の前後関係がはっきりせず、この判例自体での位置付けが良く分からないが、いずれにしても保管の合意、保管の契約があったかどうかという事実認定の問題であり、契約があったという前提にたてば、それに違反して製版フィルムを破棄すれば損害賠償の問題となるのは当然のことである。
3 要は、本件において、被告から原告に対する「そのまんま料理カード」印刷依頼のときに中間生成物たる製版フィルム、抜き型についての、重版を予定しての保管合意が成立したかどうか、という事実認定の問題である。
4 事実として、そのような合意はなされていない。
 およそ、原告被告間で印刷発注についての契約書自体が作製されていない。
 被告は、初版時に作った中間生成物を用いて重版を行うことが初版依頼時からの約束事項である、と主張しているが、そんな合意は交わされてはいない。
 被告に重版を行う具体的な予定あるかどうかは、契約当初から具体的に言われていたわけではなく、実際の重版の見積りを要求されてはじめて原告会社として認識したものである。
 一般論として重版を予定するから次の発注に備えて印刷会社は中間生成物の保管をしているのであるが、本件においても以上の域を出るものではない。
5 保管物廃棄について、顧客の承諾書をとっている(乙2)のも、印刷業界の申し合わせにより、顧客に対するサービス向上、トラブル防止の視点からなしているものであって、顧客との保管契約成立を意味するものではない。
6 これらの中間生成物の保管については、その全部を保管するということになると保管料だけでも決して小額なものではない。
 まして10年、20年保管するについて、それが保管の義務を伴うものとなれば当然保管料を顧客からもらわなければ、契約としての対価関係がなりたたない。
 将来的な業界ルールの確立という意味では、そのような方向もあるいは考えられるかも知れないが、現状において、特約のない本件のような事例において、保管義務を課するのは、印刷会社に酷である。
                               以上
●群羊社の反論=被告準備書面3
東京簡易裁判所民事部 御中
                                 2002年12月12日
                                 被告 株式会社群羊社 代表者 藤原眞昭 印

平成14年12月12日付「原告準備書面3」について               (1)「そのまんま料理カード第1集、第2集」を発注する際に、被告と原告営業担当者飯島友平氏との間においては、初版時に作るヌキ型は10年以上使えるので重版に備え原告がきちんと責任をもって保管すること、重版を行う場合はこのヌキ型を使えるので費用はかからないことの合意があった。口頭といえども、重版に備えて製版フィルム及びヌキ型を保管する約束があったのは事実である。

(2)書籍など通常の印刷発注では契約書など結ばないのが一般的である。特別の事情がない限り「約束ごと」は見積書と営業担当者との口約束に集約されるのが実情である。

(3)製版フィルムなどの「支給」や「作り直し」が行われる場合は見積書に明記されるのが一般的である。乙第3号証の重版見積書に中間生成物の作り直しの記載がないのは、原告が発注時の合意に基づき初版時に作ったものを使うことを当然のこととして認識していた証拠である。

(4)初版発行後1年経過した1995年末から1999年末にかけて、双方にとって営業上重要な話題であった重版の見込みについてしばしば(少なくても年に2回以上)情報交換を行っていた。原告営業担当者からは「再版まだ?いつごろになりそう?」との質問があり、そのたびに被告は在庫部数や重版時期の概略を伝えた。在庫部数が減るにつれて「あと1年くらいで重版になる」「半年くらいで重版になる」などと報告していた。さらに、抜き型の保管状況についても「大丈夫。重版で使える」との返事を得ていた。
 初版時に作ったヌキ型(製版フィルムはもちろん)を重版に備え保管し、重版時にはそれを使うことについて、原告・被告双方は当然のことと認識していた。

(5)「そのまんま料理カード第1集」第2刷3000部は完売し、「第1集」第3刷3000部、「第2集」第2刷2000部のうち各500部もすでに売れている。中間生成物の所有権が原告に帰属するとしても、本来無料で使えるはずであった中間生成物を使えなかったことにより生じた、被告の本来得べかりし利益について、その損害賠償責任が原告にあることは、乙第10号証の判例からも明らかである。
                                  以上
●群羊社の提出した証拠(乙証)への補足=被告準備書面4
東京簡易裁判所民事部 御中
                 2003年1月16日
                 被告 株式会社群羊社 代表者 藤原眞昭 印

2002年12月13日の裁判長のご指示に従い、被告準備書面に関する補足説明を以下の通り申し述べます。乙証提出時の準備書面等と一部重複せざるを得ませんでしたのでご了承ください。

●乙第1号証について
原告が保管している、被告の発注した印刷物の中間生成物リストで(平成14年1月16日現在のもの)、重版に備えて中間生成物を保管しておくこと、処分する場合は被告の承諾を得ることが、原告へ印刷物を発注するに当たっての合意事項であり、それが20年もの間守られてきたことを裏づけるものである。
 
●乙第2号証について
原告が保管していた中間生成物を処分することを承諾した被告のサインである。中間生成物を処分する場合は、必ずこのような被告の承諾を得ることが取引の合意事項であった。約20年もの間このような承諾書なしに処分が行われたことは、本件を除いては一度もなかった。
 乙第1号証の保管リストには、重版の可能性のないパンフレット類も含まれ、またほとんどは発行後15年以上が経過している。なぜなら印刷会社だけでは重版の可能性の有無や処分可・不可を判断することは不可能だからである。そのためにも処分するときは被告の承諾(乙第2号証)が必要であった。
 もちろん、この20年に及ぶ原告と被告の取引の中で「保管はサービスである。所有権があるから紛失しても賠償責任はない」といった、原告の主張を裏づける契約書や慣習、事前通告などはいっさいなかった。

●乙第3号証について
中間生成物が無断処分された「そのまんま料理カード第1集」の重版(第2刷)を行う際に原告が発行した見積書である。この見積書には問題となっている中間生成物を作り直すための費用の項目(製版代、ヌキ型制作代など)がまったくない。つまり「初版時に制作した中間生成物を使って重版を行う」という合意事項を、原告も明らかに認識していたことを証明する証拠である。
 この見積書は契約書と同じ重みがある。なぜなら、出版社と印刷会社との間では一般書籍の場合には契約文書など交わさないことがほとんどである。契約書に代わるものが見積書と、営業担当者との口頭による合意、約束である。
 原告によれば、この見積書を提示した後に問題の中間生成物の紛失が判明したとある(原告準備書面2)。あるべきものが紛失していたのだ。版を重ねていくことが書籍出版の大きな営業指針であり、そのためになくてはならない重要な中間生成物を紛失したとすれば、それは重大な過失である。ならば謝罪し、弁償するのが当たり前である。原告の「保管はサービスである。所有権があるから紛失しても賠償責任はない」といった論理は、自己責任を回避する言い訳に過ぎず、社会通念に反する。(乙第3号証で、営業担当「飯島」のサインと同筆跡以外は、被告のメモであり、無関係である)

●乙第4号証について
撤回

●乙第5号証及び乙第9号証
重版に必要な中間生成物が紛失し、かつ原告が弁償してくれなかったため、被告はやむを得ず他の業者でこれを作り直さなければならなくなった。この作り直しの費用を証明する文書である(乙第5号証は第1集用で型代600,000円、乙第9号証は第2集用でカードビク型667,000円とある)。これ以外にもケースの製版フィルムとヌキ型が紛失したが、その費用はこの金額には含まれていない。従って実際には損害はこれより多額となる。
 合意事項であった中間生成物の保管と重版での利用が履行されなかったことによって、重版で被告が本来得るはずの利益の損害額は少なくみても120万円以上となる。

●乙第6号証について
本件訴状にある「改訂版さくら・さくらんぼのリズムとうた第6刷」の代金支払いと、その支払いを留保した原因である「そのまんま料理カード第1集、第2集」の中間生成物無断処分問題とは、ほぼ同じ時期に起こったことを証明する文書である。
 「改訂版さくら・さくらんぼのリズムとうた第6刷」問題は、
2001年5月30日の発注(乙第6号証)→同年8月1日の請求(甲第1号証)→同年11月30日の支払い予定。
 「そのまんま料理カード1集、2集」の中間生成物無断処分と損害賠償問題は、
2001年3月の見積(乙第3号証)→同年8月の文書による損害賠償要求(乙第7号 証)。
 二つの問題は、上記のように明らかに同時期に進行している。原告は時期が違っているので別の問題であると述べているが事実誤認である。複数の仕事が続行中のとき一つの仕事に重大な過失が生じれば、契約解除、ペナルティーなど他の仕事へ影響が及ぶことは珍しいことではない。従って、二つの問題は、原告と被告の取引関係の中で総括的に扱われてもなんら問題はなく、印刷代支払いの留保は正当である。

●乙第7号証について
原告へ宛てた損害賠償要求文書である。それまでも繰り返し営業担当者を通して口頭で要求したがラチがあかないので、改めて文書をもって要求したものである。この文書にもかかわらず賠償責任をいっさい認めないどころか、謝罪すらないので、やむを得ず同時期に予定していた「改訂版さくら・さくらんぼのリズムとうた第6刷」の印刷代金の支払いを留保した。

●乙第8号証について
「改訂版さくら・さくらんぼのリズムとうた第6刷」の印刷代金の支払い留保理由の一つとなった原告の無責任さを象徴するもう一つの出来事、カラ納品事件のてんまつである。原告はこのような背信的事件を起こしてから約半年後、こんどは重要な中間生成物を紛失し、短期間の間に大失態を2度もおかした。しかも損害賠償はもちろん謝罪すら行わないという不誠実きわまりない原告に対して、零細のミニ出版社である被告は本件にある印刷代金の支払い留保をもって対処せざるを得なかった。

●2002年12月12日付「被告準備書面3」への補足説明
 「そのまんま料理カード第1集、第2集」の発注に当たって、初版納品後も中間生成物を保管すること、それを用いて重版を行うことは原告と被告間の合意事項であった。
 その事実関係は、下記の通りである。
 (1)合意事項をまとめた契約書は存在しない。なぜなら一般書籍の発注においては契約書など交わさないのが業界の通例である。契約書に代わるものが、見積書と営業担当者との商談上の口頭による合意や約束である。被告は原告に対し「そのまんま料理カード第1集、第2集」の外注工賃として約1500万円支払ったが、この取引額をもってしても契約書はなく、約束ごとはすべて見積書と営業担当者との口頭による合意にすべて集約されている。これは原告と被告間だけではなく出版界での日常的な通例である。
 (2)契約書に代わる見積書については、乙第3号証の通りで、初版時に作った中間生成物を用いて重版を行うことは原告も認識していたことは疑う余地のないことである。
 (3)営業担当者との口頭による合意の事実関係については次の通りである。
 「そのまんま料理カード第1集、第2集」の発注に当たって、1994年4月ごろから同年10月初旬にかけて、群羊社本社をおよそ週1回以上の頻度で訪れていた原告営業担当者・飯島友平氏と、被告代表・藤原眞昭とは、見積書などを資料に初版と重版の製造コストの合理化について商談を進めた。ヌキ型の製作代だけで合わせて約120万円もかかるため、一般の書籍に比べ製造コストはかなり高くなり、初版だけでは充分に利益を上げられないと考えられたため、特に重版の製造コストについては細かく協議を行った。
 この商談の中で飯島氏が特にヌキ型について、「@多少場所はとるが保管する、Aよほど大量部数に使用しない限り、一度作れば10年以上はもつので、その間作り替える必要はなく、重版で使用できる」ことを明言したことにより、それを条件に原告へ発注した。また、その条件を前提に初版と重版の製造コストを算出し、販売定価を決定したのである。
 もし、中間生成物は初版でもって請け負い契約上の役割を完了するとか、責任をもって保管しない(万一紛失しても弁償しない)とか、本来重版では出版社費用でいちいち作り直すべきものであるといった、書籍出版の原理に反する原告の言い分を聞いておれば、原告には絶対に発注しなかった。中間生成物の保管と重版での使用の合意がなされたからこそ発注したのだ。
 (4)以上のように、重版において初版に作った中間生成物を使うことは初版発注時からの合意事項であったが、さらに初版発行後も販売状況や在庫状況を逐一原告に伝え、原告は明らかに重版が予測できていた。その事実関係は下記の通りである。
 初版発行後2年目の1995年の終わりごろから1999年にかけて「そのまんま料理カード」はよく売れ、在庫は着々と減少していった。この間も原告営業担当の飯島氏は群羊社へしばしば立ち寄り、世間話や商談を行っていた。その際に被告と原告の間でたびたび話題になったのが「そのまんま料理カード」の売れ行きと重版予測であった。従って、原告は明らかに重版を予測し得ていた。また、その話の中で、当初の約束通り中間生成物、中でもヌキ型が適切に保管されていること、重版で使える状態にあるとの明言をしばしば飯島氏から聞いた。
 (5)原告は「保管料ももらわずに10年も20年もあるかないかもわからない重版を期待して保管し続ける義務だけが印刷会社にあるのは常識に反する」(原告準備書面2)、「保管する義務を印刷会社に課せられるのは酷だ」(原告準備書面3)と述べているが、書籍出版の本質をあまりにも無視している。
 また、上記営業担当者の言動とはなはだ矛盾する主張であり、被告は、この点についても原告の弁明を聞きたい。一般的には重版を前提としない雑誌類と違って、書籍の場合は重版こそが出版社の営業成績に直結するものである。
 よって、書籍出版においては、適正在庫を維持しながら、かつ販売状況と照らし合わせながら重版を積み重ねていくのである。商業出版において重版を想定しない書籍出版などほとんどあり得ない。
 「保管料ももらわずに」と原告は嘆くが、当たらない言い分である。印刷会社は、保管することによって重版の権利を手中に収めているし、重版が積み重ねられていくことによって出版社同様、印刷会社も潤うのである。しかも今回は、中間生成物の保管と重版での使用が前提となった取引であったにも関わらず、書籍出版の生命線ともいうべき中間生成物を紛失したのだから、原告に賠償責任が生じるのは当然のことである。
 (6)「そのまんま料理カード第1集、第2集」制作において被告は原告に対し、約1500万円以上を支払っている。このうち中間生成物(製版フィルム、ヌキ型など)を作る費用は約300万かかっており(無断処分されたのはこのうちの一部)、製造原価全体の約20%に相当する。
 重要なことは、これらの中間生成物は一度作れば、かなりの期間は作り直す必要がないものであり、製版フィルムに至っては半永久的に重版で使用可能である。そのため、1回の重版で単純に考えて原価率は約20%減少し、このことによって初版で回収できなかった初期投入費用を回収したり、利益を生むのである。
 特に今回のように中間生成物の保管と重版での使用の合意があったケースでは、300万円もの本来使わなくてもよい費用を重版の度に使うことなど、あり得ないことである。出版経営上からも許されないし、資源の無駄使いでもある。
 (7)これまで繰り返し述べてきたように、今回の紛失事件は、単なる原告の過失によるものである。中間生成物を保管し、重版で使用する合意もあったのだから、甲第2号証の判例のケースともまったく事情を異にしている。
 原告が主張するような、初版製品を納品してしまえば、それで印刷会社の請負契約が全うされ、中間生成物の役割も完了し処分も自由にできるとする考えは、書籍出版の実態にそぐわない。原告は本当にそういった考えで営業活動を展開しているのか? 
 その方針が原告の取引先である全出版社に知れたとしてもなんら痛痒を感じないという判断のもとでの主張であるかどうか、改めて問うものである。    以上
東京簡易裁判所民事部御中

                      平成15年1月23日
                        弁護士 岩倉 哲治 印
                        弁護士 高橋 美成 印

被告準備書面4について 

1 承諾書(乙2)については、印刷会社が発注者からもらったうえで廃棄処 分にするのが、現在では通常の手法となっているが、これは顧客とのトラブ
 ル防止の観点からで、これをもって、印刷会社の保管義務が発生するわけで はない。
2 見積書(乙3)作成にあたって、中間生成物が存在するものと担当者が思
 っていたことは間違えなく、見積書もそれに準じたものである。その後、原 告の下請け会社において、製版フィルムの一部分と抜き型紛失の事実が判明 した。
3 今回の抜き型紛失事件についての、原告の過失についてであるが、原告の 下請け会社の倒産に伴う中間生成物の紛失事件が、顧客である被告にご迷惑 をおかけしたことは間違いない。
  原告の担当者飯島、広部常務も、この件で、多数回にわたり、被告事務所 を訪問し、謝罪し、善後策を講じたが、解決に至らず、被告としては謝罪で はなく損害賠償を求めたため、本件訴訟にまで発展したものである。
                                  以上
●裁判所の判断=判決(写し)
平成15年3月19日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成14年(ハ)第11892号 売買代金請求事件
口頭弁論集結日 平成15年1月24日

判決

東京都荒川区東日暮里六丁目20番9号
 原告  壮光舎印刷株式会社
 代表者代表取締役  竹内  一
 訴訟代理人弁護士  岩倉 哲二
 同         高橋 美成

東京都文京区本郷二丁目12番4号
 被告        株式会社群羊社
 代表者代表取締役  藤原 眞昭

主文

1 被告は、原告に対し、金67万6126円及びこれに対する平成13年11月1日から支払い済まで年6パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
   主文と同旨
第2 事案の概要
 1 請求原因の要旨
 原告は、一般印刷を業とする株式会社であるが、被告から「改訂版さくら・さくらんぼのリズムとうた第6刷」2000部の印刷を代金67万6126円、支払い期日を平成13年10月末日として請け負い、印刷の上、被告に全部納品したとして、被告に対し、上記請負代金及び遅延損害金の支払いを求める。
 2 被告の主張
 被告は、被告が原告に発注し、平成6年10月に初版を発行した「そのまんま料理カード・第1集及び第2集」(以下「そのまんま料理カード」という。)の中間生成物である製版フィルムの一部及び抜き型を原告が紛失したため、被告はやむなく自己負担でこの抜き型及び製版フィルムを作り直さざるを得なくなり、その費用が120万円に上ったので、この損害賠償請求権と対当額で相殺する旨主張する。
第3 当裁判所の判断
 1 請求原因事実は、当事者に争いがない。
 2 原告が平成6年に被告から「そのまんま料理カード」の印刷の発注を受け、これに応じて納品したこと及び「そのまんま料理カード」の中間生成物を原告会社の下請業者が処分していたことが平成13年頃発覚したことは、当事者間に争いがない。
 3 争点は、中間生成物として作成する製版フィルムや抜き型についての所有権の帰属、原告の保存義務の有無及び被告の損害額である。
 成立に争いのない甲第2号証、乙第2号証、同第3号証、同第10号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 (1)中間生成物の所有権の帰属について
 被告が主張する「そのまんま料理カード」は、被告の発注により原告が印刷、製本を請け負ったものであるが、一般的に、印刷、製本の請負契約において、請負人が自己の材料を使用して印刷、製本を完成した場合、請負人としては請け負った仕事を完成し、目的物を発注者に引き渡せば足り、これにより報酬請求権を取得する。したがって、本件の場合も、原告が請け負った仕事の目的物である「そのまんま料理カード」を印刷、製本する過程で生じた中間生成物は、請負の目的物ではないから、その所有権について、原、被告間で特別の合意がない限りその所有権は請負人である原告に帰属し、原告がこれを発注者である被告に引き渡す義務はないものである。また、「そのまんま料理カード」の請負契約において、中間生成物の所有権者を被告とする合意については、本件全証拠によっても、これを認めるに足りない。
(2)中間生成物についての原告の保管義務について
  被告は「そのまんま料理カード」の印刷、製本を発注した際、原告会社営業担当者飯島友平との間において、中間生成物は原告が責任をもって保管することを合意したと主張するが、原、被告間の合意の事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
 印刷業者が中間生成物を保管しておくことは、重版の際の出版費用節減のため、発注者の利益になると同時に、印刷業者としても重版の発注申し込みが容易になるということは容易に認められるところであり、このため、原告も、乙第2号証によれば、原告の保管する中間生成物である紙型を廃棄するについても予め被告の了承を得ていたことが認められる。しかしながら、印刷業者が保管している中間生成物の廃棄について発注者の同意を得ることは、印刷業者と発注者の間の紛議を未然に防止するための者であって、この事実のみをもって直ちに原告に中間生成物の保管義務があり、これを廃棄することについては被告の同意を要するとする法的義務が認められることにはならない。
 また、原告が被告から「そのまんま料理カード」の印刷、製本の発注を受けたのは平成6年である、その後、被告から重版について注文があり、平成12年3月8日にその見積りをしたことが認められる(乙第3号証)が、これによると、「そのまんま料理カード」の初版から重版までは少なくとも5年以上経過していることが認められ、通常の商取引上、重版を予想して印刷業者が中間生成物を保管する期間を既に経過しているということができ、原告会社の下請業者がその頃中間生成物を処分していたことが特に信義則に反し、違法となるとはいえない。
(3) 以上の事実を総合すると、その余の事実について判断するまでもなく、原告の請求は、その理由がある。
  
  東京簡易裁判所民事第2室
     裁判官  大林 快行
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