群羊社事典 < 事典4
そのまんま料理カード」の理由なき受難、抜き型およびフィルム紛失事件
「そのまんま料理カード」改訂版シリーズ4点は、楽しい教材として日本全国で広く使われ、教育効果も有意に高いと評価されています。この盛り上がりの陰で「そのまんま料理カード」に使用する中間生成物の紛失責任をめぐって民事裁判が繰り広げられてきました。
 「そのまんま料理カード」をはじめ、重版の可能性のある印刷物は初版の時に作った製版フィルムや抜き型(実物大の料理の形に抜くための金属の刃)などの、いわゆる中間生成物を保存しておくことで、必要に応じていつでも印刷して製品を作ることができます。
 この書籍出版にとって生命線ともいうべき重要な中間生成物の一部を、保管していた印刷会社が紛失してしまったから、さあ大変! 群羊社としては当然損害賠償を申し入れましたが、印刷会社はこれをかたくなに拒否。
 群羊社としてはやむを得ず、別件の印刷代金の支払いを差し止め、損害の一部に充当する処置をとりました。この争いは話し合いでは決着がつかず民事裁判に舞台を移し、4回にわたって公判が開かれ、判決が下されました。

●争点
 群羊社は、「そのまんま料理カード・第1集及び第2集」の中間生成物である製版フィルムの一部及び抜き型を印刷会社が紛失したため、やむなく自己負担でこの抜き型及び製版フィルムを作り直さざるを得なくなったこと。印刷会社がこの損害賠償を行うのは当然であること。これが拒否されたので、賠償請求権と対当額で相殺するため、別件印刷代金の支払いを差し止めたのは当然であること、などを主張。
・印刷会社は、これらの中間生成物は、印刷会社に所有権があるから損害賠償の責任はないと主張。

●判決
 「保管しておいて重版で使うことが発注に当たっての合意事項であったのだから、印刷会社に損害賠償義務がある」とする群羊社の言い分は、当初の「保管の合意」が立証されないからと、いわば証拠不十分として却下され、「免責」を主張する印刷会社の言い分が認められました。

●おかしいぞ! 納得できません、群羊社は
 書籍類なら重版が前提になるのは出版の常識中の常識。会社に発注したのは、重版も含めて綿密な見積と合意が営業担当者との間にあったからこそ。裁判所は「保管」の合意が立証できないといいますが、そもそも見積書と営業担当者との商談による合意以外に契約書なんかないのが一般的。

●再びこのような事件を起こさないための対策
 この裁判から学ぶことは多くあります。これから印刷物を発注される方には、次のような対策をおすすめします。

(1)信用できる印刷所を選ぶ。
これが一番。仕事がきちんとしている印刷所を選べばこんな事件はまず起きませんし、万一起きたとしても、誠実な態度で問題解決に当たってくれるでしょう。
(2)発注時に保管義務や所有権に関する合意を文書化しておく。
万一のトラブルに備えて、保管期間、処分するときの手続き、所有権などについて文書を交わしておくとよいでしょう。
(3)中間生成物ではなく、目的物としての請負契約にする。
今回の判決やこれまでの判例では、請負契約の目的である印刷物を納品すればよいのであって中間生成物は目的物とはならない、従って中間生成物の所有権は印刷会社にあるとしています。逆にいうなら、製版フィルムやデジタルデータの発注と、これらを使って印刷し製本する仕事を別の会社に発注するか、同じ会社でも別の請負契約とすれば、製版フィルムなどは中間生成物ではなくて請負契約の目的物となり、所有権も発注者に帰属することになるはずです。
(4)デジタルデータは、双方で保管する。
これからの主流となるデジタルデータ類では、さらに難しい問題がでてきます。MOはあってもデータが壊れたりするケースも予想されます。このような事故によるトラブルを防ぐには、データ保管体制をきちんと確立することとともに、最終データを印刷会社と出版社の双方で保管して万一に備えるなどの対策が必要でしょう。

裁判資料
(2003.4、藤原)