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「怒」に始まる夏の北欧紀行
 この夏、あこがれの北欧へ…!!訪れたのはフィンランド、スウェーデン、ノルウェーの3か国。北欧といえば、「食育」や「社会福祉」の先進国として知られている。「え?もちろん、食育教材の研究のために行ってきたんですよ〜」と恰好よく言えるといいのだが、私の旅の3大目的は「豪華客船でのバルト海クルーズ」「フィヨルドクルーズ」、そして「ムンクの名作“叫び”の鑑賞」だった。

 ところが(!)、出発が目前に迫ったある日のこと。あの「ムンクの“叫び”」が美術館から盗難されるという事件が…!!その翌々日には近隣国ロシアでテロにより飛行機2機が墜落するという事件が起きた。怒りや哀しみで何となくすっきりしない気持ちで迎えた当日は、なんと、台風の暴風雨のなかの出発だった。
「この度重なるいや〜な出来事は、まさか旅先での不幸を暗示しているのでは…?」
 出発前夜まで〆切の仕事に追われ、過労と睡眠不足で最高に疲れて果てていた私。
「過労のあまりエコノミー症候群で死ぬかも!」と冗談半分で捨てゼリフを残してきたが、本当にこの機内食が私の最後の晩餐になってしまうのではないか(しかもエコノミー席用の食事!?)と不安におびえていた。
 しかし、何事もなく、無事、北欧の地に降り立った。その瞬間、不安や疲労は一気にどこかへ吹き飛んでしまった。「喜」「楽」という感情は、ドリンク剤をはるかに超えるパワーを与えてくれるものだ。

嬉しさのあまり頬の筋肉がゆるみっぱなしであると同時に、食欲もとどまるところをしらない。朝も、昼も、夜も、ひたすら食べ続け、おなかまわりはみるみるうちにふくらんでいき、ぴったりサイズのスカートが途中からはけなくなってしまった。
 私たちが通常「バイキング」と呼ぶ、一定料金で好きなものを好きなだけ食べられる食事スタイルは、じつは北欧が元祖。スウェーデン語では「スモーガスボード」と呼ばれる。この食事スタイルが続くものだから、あれもこれもとついつい食べ過ぎてしまうわけ。北欧は魚介やフルーツが充実していて、しかも新鮮でおいしいものだから、どんなに苦しくても食べずにはいられない。フランス旅行のときのように、脂肪のとり過ぎでおなかがもたれて絶食…という事態に陥ることもなかったから、日々太り続ける。
 大好物の「スモークサーモン」は食べ放題。意外に気に入ったのは「ニシンの酢漬け」。日本の梅干しのように日常的なものらしく、マスタード味、トマト味、ベリー味などさまざまな種類がある。そして、甲殻類アレルギー体質ながらも「せっかくだから…」と思い、名物「ザリガニ」にも初チャレンジ!(なんとか大丈夫でした。ほっ)
 ベリー類はとにかく豊富で、旬のブルーベリーやラズベリー、グロゼイユ、名前のわからない色も形も大きさもさまざまな種類をみかけた。これらで作られたジャムは、ヨーグルトだけでなく、肉料理にも添えられる。毎日こんなにおいしいベリーを食べて暮らしている人たちは、本当に幸せ者だ。
 今回の旅において、意外な感動をおぼえた観光スポットといえば、ノルウェーの首都オスロの郊外にある「フログネル公園」。ここは、群羊社流に俗っぽく言わせてもらうなら「喜怒哀楽どんぶり公園」。人の一生というダイナミックな生きざまが「喜」「怒」「哀」「楽」のあらゆる感情でもって、212もの彫刻に見事に表現されている。彫刻家グスタフ・ヴィーゲラン(1869〜1943)が晩年を捧げてつくりあげたこの広大な野外美術館に佇んでいると、ちっぽけな存在の人間が、北欧の壮大な大自然より大きく見えてくるような…不思議な気持ちにさせられた。
豪華客船でのスモーガスボード
豪華客船でのスモーガスボードの例。これは冷菜メニュー。この後、温菜メニュー、デザートメニューと3つのお皿を楽しむ。この日はワインが飲み放題!
ヘルシンキの市場(野菜など)
ヘルシンキのマーケット広場にて。旬のグリンピースは生のまま食べる。とうもろこしのように甘くておいしい。
ヘルシンキの市場(サーモン、ニシンなど)
サーモン、ニシン、サバ、タラが主流。海の幸に恵まれ、その充実さは日本並み。燻製などの加工品も多い。
オープンサンドイッチ
スモークサーモンやボイルえびなどを贅沢にのせたさまざまなオープンサンドイッチ。あれもこれも食べてみたいものばかり。
帰路の途中から、徐々に現実の日々がよみがえってくるものだ。今までのことは遠い夢だったかのように…。私の空虚な気持ちを盛り上げるかのように、日本には再び大型台風が接近していた。関西国際空港までは無事到着したものの、そこから羽田までの便が欠航となり、新幹線で帰ってくるはめに…。朝9時に大阪に到着したにもかかわらず、なんだかんだと埼玉の自宅に戻ってきたのは夕方5時。そして、その翌日からは仕事、仕事、仕事の日々…。
 魅力的な人との出会い、美しい風景との出会い、味覚を刺激する料理との出会い…より深い感動のある旅を楽しんだ後ほど、現実の生活に戻ったときの空虚感は大きい(私はこれを「ガッカリ症候群」と呼んでいる)。残業の後に泥酔者だらけの深夜電車に揺られて帰宅する自分、パソコンで目が疲れて思わずブルーベリーのサプリメントに手を出す自分…、そんな生活にふと疑問を抱き、また今にでもすぐ旅に行きたくなるのである。しかし、逆に考えると、現実の多忙な日々から解放されたいという思いが強いからこそ、旅の喜びがよりいっそう深みを増すのかもしれない。(平山裕美)
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